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ホンのすこし

本と音楽を巡る旅

幸せになるための一歩を…『神様のケーキを頬ばるまで』

人の感情は複雑だ。

 

はたから見ると何の悩みもなく幸せに暮らしているように思えても、心の奥底ではどうしようもない気持ちを抱えているかもしれない。

 

「素敵な人だ、こんな大人になりたい」そう思われている人だって、その人の日常は波乱に満ちているかもしれない。

 

そんな"人の感情の歪み"、"不穏さ"、"アンバランスさ"。言葉に出来ない微妙な感情や深い部分を上手く表現しているのがこの『神様のケーキを頬ばるまで」です。


神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)


とある雑居ビルを舞台に、そこに関係する人たちの生き方を描いた物語。生きることに不器用な主人公たちが、悩みながらも自分の光を探して歩き続ける。「暗い森に入ってはいけない。」それなのに…人はどんどん深みへと落ちていく。

 

一見大人で素敵な人生を歩んで見えそうな人が、実際は家庭が上手くいかず子供との関係に悩んでいたり、好きなのに次に進むために別れる選択をしなければいけなかったり…

 

胸がぎゅっとなる物語が詰まっています。とても苦しいのに、何故かとても好きだと思う。それはきっと、主人公たちの脆さや不安定さが自分と重なるから。愛の歪みの苦しさがずっしりとのしかかってくるから。

 

 私は「龍を見送る」が特に好きです。切ない。

 

好きなのに、気持ちはまだそこにあるはずなのに。それなのに別れないといけない。そんな恋ってあるんだな。それはきっと、大人への階段なんだ。

 

この本、とても大好きです。

 

本書解説の柚木麻子さんによると、これは「祈りの物語」らしいです。なるほど。確かに「祈り」なのかもしれない。

 

なんというか、柚木さんの深読みの仕方がすごいと思った。知識ある人にしかできない読み方で、自分には思いつかない視点、思い至らない部分で、それがまた面白かったです。